ついこの前までいざなぎ景気越えだ、戦後最長の景気拡大だと喧伝されていたのが嘘のように、景気の先行きに対する見方が悲観的になっています。また、凄い勢いで値上がりを続けていた中国やインドの株式市場も今年に入ってから大きく値下がりに転じており、中東やロシアなどの資源国の株式市場も調整局面です。ただ、こうした国々は高い成長を維持しており、今後も伸びが期待されています。さて、併せて世界の人口の三分の一を占める中国、インド両国の高い成長により石油など資源への需要が高まり、中東やロシアといった資源国が潤うという構図が続いております。石油価格は株式市場が下落を始めた昨年半ばから再度急騰を始めており、どうも株式から石油へのヘッジファンドなどからの資金シフトが続いているようです。中国やインドは主に物の生産と内需で経済が拡大していますが、中国では貿易黒字による外貨準備の増加が続いています。中東とロシアは主に石油の値上がりによる収入増が最大の成長エンジンです。したがって、これは先進諸国からの所得の移転といえます。これが、一部政府系ファンドとして、先進国へ投資されることにより、資金が還流するという構図です。ところで、この資金は日本にも還流するのでしょうか。
政府系ファンド脅威論は日本にも海外にもありますが、実際はどうなのでしょう。実態を正確に捉えるすべはありませんが、中東のGCC(Gulf Cooperation Council)諸国の人口合計は3,500万人に過ぎないことに留意すべきでしょう。GCC最大の国家であるサウジアラビアは重点的にフォーカスするセクターをエネルギー、運輸、情報通信に絞り込んでいます(SAGIA)。仮に脅威があるとしてもこうした特定の分野に限られるのではないでしょうか。
一方、今回の株安の発信地である米国はどうでしょうか。確かにサブプライムの問題から発した金融システムの弱体化が経済の重石となる可能性が高まっていますが、この国の人口は拡大を続けていますし、国民は将来に対する希望を常に持ち続けているように見えます。翻って日本においては、人口減、年金問題を中心とした将来に対する国民の不安、依然として硬直的で非効率な行政システム、リーダシップ不在の政治状況などに端を発した混乱など、かなり根が深いようです。
経済が成長しているうちはさほど深刻に取り上げられなかった日本の巨額の財政赤字ですが、国の借入金合計838兆円(2007年12月末)とGDP512兆円(2006年度)の1.6倍以上もある事実が不況時のように世界的にクローズアップされる可能性もあります。この借入金を地方も含む長期債務残高でみると1200兆円近くに上るとの見方もあり、金利水準が低いので助かっていますが、金利が上がると借り換え後の金利負担が高まるし、保有債券の価格は低下して、債券を保有している金融機関への影響は大きなものとなります。
日本は、この巨額の借金をほぼ日本内部でファイナンスしていますが、この原資となっているのが、国内の年金、郵貯・簡保、生保や個人金融資産等です。インフレがないとはいえ、世界的に見てもこの異常な低金利は、日本の資金の閉鎖性に起因しているように思われます。
各国の中央銀行レートを示したものが以下の表ですが、日本の金利水準が如何に低いかが一目瞭然です。このことにケチをつけるつもりはありませんが、デフレであったとはいえ、景気拡大の中にあって世界的にこれほどの低金利を維持できたのは、低金利でもファイナンスする国内投資家が居たからだと推測されます。
こうした恵まれた国内債券市場に比べて、外国人頼みの株式市場は、日本への信頼が失われると惨々たる状況となります。これは、昨年夏からの状況からも見て取れます。
さて、こうした状況下で、日本でもSWFを創設しようとの一部政治家の動きがあります。この狙いは株式への投資額を増やして日本のプレゼンスを高めようとのことのように見受けられますが、そもそも、SWFは国民の将来のための投資ですから、ほぼ年金と同等の性質といえます。
一方、現在の日本の国家公務員共済連合会の運用をみてみますと、今話題になっているノルウェーのSWFであるGPFや、米国の代表的年金であるCalPERS(カルフォルニア州職員退職年金基金)のポートフォリオと比較すると大きな違いが見受けられます。株式への投資比率が極端に低いのです。計画ベースでは、GPF、CalPERSともに株式の比率が60%以上であり、国共連の実績値12%と大きく差があります。国民の富を増やすことを目的とするならば、こうした年金のアセットアロケーションを考え直すことが先決ではないかと思います。
このように、どうも、日本においては株式投資が軽視されているように感じます。2007年度に関しては、株式相場の低迷で、年金の運用成績は悪いながらも、株式比率の低さが幸いしていますが、長期的に見た場合の株式投資の債券投資への優位性は明確であり、もっと株式への投資比率を高めるべきと個人的には考えるのですがどうでしょうか。
このアロケーションが変わらない前提で考えると、日本の株式相場は引き続き外国人頼みとなるので、好むと好まざるとに関わらず、外国人投資家から評価される市場にしていく必要があります。そうしなければ、株価は低迷を脱することが難しく、このことが年金への不安を呼び、消費低迷が続き、国力が低下する、という負の連鎖に繋がる事になりかねないと心配しています。
金利水準に関する人々の関心と比べて、株価の動きというのはどこかひとごとのように受けとめられている感じがするのは私の思い過ごしでしょうか。それはともかく、年金の積み立て不足が問題とされている中で、このような低金利の日本において国内債券に極端に偏った運用で必要なリターンを出せるのか、もっと活発に議論して欲しいものです。こうした議論が活発に行われることによって、株式投資など自分には関係ないと思っている多くの日本人も、株式に関心を持つことになり、より多くの国内資金が株式に向かうようになるものと思います。企業は誰のものかという神学論のような議論はほどほどにして、そもそも株式は自分たちの生活に実は確り組み込まれていることを、企業の方にも、政府の方にも、国民にも自覚をしてもらうことが重要であると思います。
株式は我々の将来の生活の糧であり、希望の星なのです。
(傍目八目)