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2008年5月 7日 (水)

決算早期化の2つの意義

Ir_3s  決算早期化の要請が加速しています。平成18年3月には、東京証券取引所(以下、東証)に設置された「決算短信に関する研究会」から、第1四半期の約半分が経過する期末後45日以内の開示が適当、30日以内の開示が望ましい、また50日以内に開示ができない場合には、理由及び翌年度以降の開示の見込み・計画について開示を求めることが適当、という旨の報告書が提出されています。また、平成20年4月1日以降開始する事業年度からは、金融証券取引法(第24条の4の7第1項)により、四半期報告書の提出が義務付けられており、法定期限までに提出できない場合には上場廃止のおそれが生じることになりました。

 東証がまとめた平成19年3月期決算短信の開示状況によれば、期末後45日以内に決算発表を行っている企業の割合は73.3%(1,804社中1,322社)で、前年の54.2%(1,792社中971社)から大幅に上昇しており、平均開示日数も42.48日から40.95日へと改善されています。本格的な決算早期化には、業務フローの見直しをはじめとして、会計システムの導入と適切な運用、各種決算スケジュールの調整まで膨大な作業が要求されますので、現場の方々が努力されている様子が目に浮かびます。ただ、このように改善が進んでいる状況をもってしても、依然として4分の1超の企業の決算日が期末後45日を上回っており、さらなる早期化を求められていることになります。

 そもそも決算早期化の意義とは何でしょうか。まず挙げられるのは、投資家に対する迅速な情報提供という点になるでしょう。決算早期化を実現することによって、投資家は、タイムリーで投資意思決定に資する情報の入手をはじめとして、沈黙期間の短縮化、インサイダー取引発生可能性の縮小等のメリットを享受することになります。同時に企業にとっても、投資家重視の姿勢と適切な経営管理体制をアピールして、適正な株価形成に繋げていくことができると言えるでしょう。一方で、決算早期化の2つめの意義として、経営トップに対する決算情報の迅速なフィードバックという点も忘れるわけにはいきません。つまり、経営活動をPlan(計画)-Do(実行)-Check(評価)-Action(改善)というマネジメントサイクルを回転させることによって収益力の向上を目指していくものと捉えるならば、決算早期化によってこのサイクルはぐっと短くなり、経営課題の早期発見・迅速な改善活動によって、収益力を高めていくことができると考えられるのです。
 
 通常、IR部門に属している方々の視点は前者にあり、経営活動それ自体に関するメリットについてはあまり意識されることがないのではないかと思います。一方で、経理・財務部門に属している方々の視点は後者にあり、決算短信や四半期報告書については、従わざるを得ない制度としてのみ捉えられているのではないかと思います。決算早期化については、2つの側面から意義を理解することが必要であり、2つの意義を鑑みれば、決算早期化は自発的・戦略的に取り組んでいくべきものなのだとご認識頂けるのではないでしょうか。

(ひよこまめ)

2008年4月21日 (月)

株主との距離感

Ir_2s  決算発表の季節である。マクロ環境の不透明感が強まるなかで、今期の業績予想はあまり良い数字を期待しにくいようだ。今年は中期経営計画を発表する企業も多いが、業績目標の数値が総じて控えめで、業績の回復を成し遂げた次の成長戦略に苦慮している様子がうかがわれるものも見受けられる。株主判明調査についてはこれから繁忙期を迎えるが、今年は株主名簿が企業の手元に届く時期が昨年までより早くなっているようだ。株式総会での議決権行使に対する企業の意識の高まりにより、株主名簿管理機関の対応が早くなったのであれば好ましい変化であり、調査を行なう我々にとってはありがたいことである。

 さて、足元のようにマクロ環境の不透明感が強まると、これまでの市場経済化、民営化の流れを見直そうとする動きや論調が増えてくるようだ。そうは言っても、経済が現在より単純だった頃のように、政府が経済を管理し、介入する時代に戻れるはずはない。結局、資源分配をマーケット・メカニズムにゆだねるという原則の下で、政府の役割と市場の役割とのバランスをどのように見直すか、という問題になる。そのバランス配分は、自国の経済の成長段階や文化・政治的背景などを考慮しながら各国が独自に決断するべきことであり、国民にはその決断による結果が及ぶことになる。各国政府の果たすべき役割が重大であることに変わりは無い。

 IR活動も、市場経済化の進展により経済や社会全体における民間部門、なかんずく企業に期待される役割が相対的に大きくなる流れのなかで、企業や株式市場を通じて、社会に深く浸透してきている。特に、マーケット・メカニズムの効率性を高めるために、情報開示や投資家保護のルールの整備と、それを確実に執行するための体制の強化が必要である、という点については日本でも広く認識が共有され、J-SOX法の施行などをきっかけに実務面での対応が急速に進んでいる。

 これに対して、上場企業の経営者とその企業の株主との間の距離感については、日本社会の中で意見の一致がみられていない。アクティビストなどの経営関与に積極的な機関投資家は、経営者と株主は、対等の立場でのコミュニケーションを通じて企業価値を高めるために努力するべきであり、そのため両者の間に健全な緊張感があるのは当然である、と考えている。一方、日本の上場企業経営者の多くは、自社の経営に対する株主の深い関与に強い抵抗感を持っている。現時点では、まさに手探り状態のなかで、各企業が株主との適正な距離を独自に判断し、市場はその判断も含めて当該企業を自社なりの尺度で評価している状況である。この点について私自身は、企業と株主との間に一定の緊張状態が存在するほうが、企業内部の方々の事務的負担や精神的ストレスは増すものの、独善的判断による失敗や停滞のリスクを抑えるという意味で好ましいと考えている。

 そうした観点から気になるのが、ザ・チルドレンズ・インベスツメント・ファンドのJパワー株の買い増し要求に対して、日本政府が中止・変更の勧告に至るまでの政府の姿勢である。予めお断りしておくが、これは、両社のホームページなどの公開情報だけを材料とし、電気事業法により政府の介入は担保されているので、早急にも最終的にも公益面で問題が発生する可能性は低いという判断したうえでの、個人的な意見である。今回の件では、過去に国内資本の大規模な投入を受け、今後は事業の国際展開を期待されているJパワーが経営者の立場にあるが、そのJパワーに対し大きな影響力を持つ経済産業省も実質的に重要な当事者である、というのは一般的な認識であろう。日本企業が自由で効率的な経営を行える環境を整備する、という役割を期待されている経済産業省であれば、むしろこの問題を好機ととらえ、成長戦略やファイナンスについて、アクティビストと対等の立場で腰を据えた議論を重ね、その内容を、重要なステークホルダーである国民に対して積極的に公開するべきではなかっただろうか。そうしたプロセスを通じて、日本企業の株主対応に関する良い意味でのモデル・ケースとなり、ひいては日本の株式市場の市場経済化・効率化を促進する、というくらいの気概と度量を経済産業省に示して欲しかったと思うのだが、いかがであろう。

(トーマス)

2008年4月 7日 (月)

希望の星

Ir_1s ついこの前までいざなぎ景気越えだ、戦後最長の景気拡大だと喧伝されていたのが嘘のように、景気の先行きに対する見方が悲観的になっています。また、凄い勢いで値上がりを続けていた中国やインドの株式市場も今年に入ってから大きく値下がりに転じており、中東やロシアなどの資源国の株式市場も調整局面です。ただ、こうした国々は高い成長を維持しており、今後も伸びが期待されています。さて、併せて世界の人口の三分の一を占める中国、インド両国の高い成長により石油など資源への需要が高まり、中東やロシアといった資源国が潤うという構図が続いております。石油価格は株式市場が下落を始めた昨年半ばから再度急騰を始めており、どうも株式から石油へのヘッジファンドなどからの資金シフトが続いているようです。中国やインドは主に物の生産と内需で経済が拡大していますが、中国では貿易黒字による外貨準備の増加が続いています。中東とロシアは主に石油の値上がりによる収入増が最大の成長エンジンです。したがって、これは先進諸国からの所得の移転といえます。これが、一部政府系ファンドとして、先進国へ投資されることにより、資金が還流するという構図です。ところで、この資金は日本にも還流するのでしょうか。

政府系ファンド脅威論は日本にも海外にもありますが、実際はどうなのでしょう。実態を正確に捉えるすべはありませんが、中東のGCC(Gulf Cooperation Council)諸国の人口合計は3,500万人に過ぎないことに留意すべきでしょう。GCC最大の国家であるサウジアラビアは重点的にフォーカスするセクターをエネルギー、運輸、情報通信に絞り込んでいます(SAGIA)。仮に脅威があるとしてもこうした特定の分野に限られるのではないでしょうか。

一方、今回の株安の発信地である米国はどうでしょうか。確かにサブプライムの問題から発した金融システムの弱体化が経済の重石となる可能性が高まっていますが、この国の人口は拡大を続けていますし、国民は将来に対する希望を常に持ち続けているように見えます。翻って日本においては、人口減、年金問題を中心とした将来に対する国民の不安、依然として硬直的で非効率な行政システム、リーダシップ不在の政治状況などに端を発した混乱など、かなり根が深いようです。

経済が成長しているうちはさほど深刻に取り上げられなかった日本の巨額の財政赤字ですが、国の借入金合計838兆円(2007年12月末)とGDP512兆円(2006年度)の1.6倍以上もある事実が不況時のように世界的にクローズアップされる可能性もあります。この借入金を地方も含む長期債務残高でみると1200兆円近くに上るとの見方もあり、金利水準が低いので助かっていますが、金利が上がると借り換え後の金利負担が高まるし、保有債券の価格は低下して、債券を保有している金融機関への影響は大きなものとなります。

日本は、この巨額の借金をほぼ日本内部でファイナンスしていますが、この原資となっているのが、国内の年金、郵貯・簡保、生保や個人金融資産等です。インフレがないとはいえ、世界的に見てもこの異常な低金利は、日本の資金の閉鎖性に起因しているように思われます。

各国の中央銀行レートを示したものが以下の表ですが、日本の金利水準が如何に低いかが一目瞭然です。このことにケチをつけるつもりはありませんが、デフレであったとはいえ、景気拡大の中にあって世界的にこれほどの低金利を維持できたのは、低金利でもファイナンスする国内投資家が居たからだと推測されます。

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こうした恵まれた国内債券市場に比べて、外国人頼みの株式市場は、日本への信頼が失われると惨々たる状況となります。これは、昨年夏からの状況からも見て取れます。

さて、こうした状況下で、日本でもSWFを創設しようとの一部政治家の動きがあります。この狙いは株式への投資額を増やして日本のプレゼンスを高めようとのことのように見受けられますが、そもそも、SWFは国民の将来のための投資ですから、ほぼ年金と同等の性質といえます。

一方、現在の日本の国家公務員共済連合会の運用をみてみますと、今話題になっているノルウェーのSWFであるGPFや、米国の代表的年金であるCalPERS(カルフォルニア州職員退職年金基金)のポートフォリオと比較すると大きな違いが見受けられます。株式への投資比率が極端に低いのです。計画ベースでは、GPF、CalPERSともに株式の比率が60%以上であり、国共連の実績値12%と大きく差があります。国民の富を増やすことを目的とするならば、こうした年金のアセットアロケーションを考え直すことが先決ではないかと思います。

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このように、どうも、日本においては株式投資が軽視されているように感じます。2007年度に関しては、株式相場の低迷で、年金の運用成績は悪いながらも、株式比率の低さが幸いしていますが、長期的に見た場合の株式投資の債券投資への優位性は明確であり、もっと株式への投資比率を高めるべきと個人的には考えるのですがどうでしょうか。

このアロケーションが変わらない前提で考えると、日本の株式相場は引き続き外国人頼みとなるので、好むと好まざるとに関わらず、外国人投資家から評価される市場にしていく必要があります。そうしなければ、株価は低迷を脱することが難しく、このことが年金への不安を呼び、消費低迷が続き、国力が低下する、という負の連鎖に繋がる事になりかねないと心配しています。

金利水準に関する人々の関心と比べて、株価の動きというのはどこかひとごとのように受けとめられている感じがするのは私の思い過ごしでしょうか。それはともかく、年金の積み立て不足が問題とされている中で、このような低金利の日本において国内債券に極端に偏った運用で必要なリターンを出せるのか、もっと活発に議論して欲しいものです。こうした議論が活発に行われることによって、株式投資など自分には関係ないと思っている多くの日本人も、株式に関心を持つことになり、より多くの国内資金が株式に向かうようになるものと思います。企業は誰のものかという神学論のような議論はほどほどにして、そもそも株式は自分たちの生活に実は確り組み込まれていることを、企業の方にも、政府の方にも、国民にも自覚をしてもらうことが重要であると思います。

株式は我々の将来の生活の糧であり、希望の星なのです。

(傍目八目)

2008年3月24日 (月)

増配を考える

Ir_7s 昨年の株主総会では機関投資家による株主提案が目を引いた。その中には増配を要求するものが少なからずあった。米国の投資家であるブランデス・インベストメント・パートナーズが小野薬品工業に対して、会社提案の年間配当100円に対し7倍の700円とするよう提案したことや、英国のザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドが電源開発に対し、一株当たりの期末配当金を30円から100円にすることを求めて株主提案を行ったことは記憶に新しい。今年は、アクティビストと呼ばれる投資家たちによる株主提案が増えるのではないかと予想され、増配要求も数を増す可能性がある。

 何故投資家はここへ来て増配を要求するようになったのだろうか。ひとつには外国人を含めた機関投資家による株式の保有が増えたことがあげられる。機関投資家はパフォーマンスを重視しているので配当を希望する。また、企業にキャッシュを放出させることによって、ROEのような投資効率を示す数値が改善する。また、日本における平均配当性向は約20%であるが、米英ではそれより高く、外国人投資家はより高い配当性向を期待するのかもしれない。

 しかし、すべて高い配当を望む「強欲な」投資家ばかりかというとそうではない。ベンチャーの発掘、投資、育成や大企業向けコンサルを行うドリームインキュベータのホームページを見ていただきたい。IRニュースの中に、増配を決定した会社に対し、株主である板倉雄一郎氏からの反対意見を述べる手紙が掲載されている。板倉氏は「『御社の『夢』に共感し、長期で御社を応援しながらキャピタルゲインを得ようとする株主』から見て合理的ではありません。」とし、育てるべきベンチャーの発掘や人材の調達と育成に積極的に資金を投じるべきだとしている。

 また、海外に目を向けても、ウォーレン・バフェット氏の所有する投資会社のバークシャー・ハサウェイは配当をしないことで有名である。同社は1ドルの利益を内部留保し、その1ドルが1ドル以上の市場価値を生み出せなくなった場合には配当を行うと謳っているようである。また、配当金を支払っていなかったマイクロソフトが配当金を出す政策に変更したときは、マイクロソフトの成長神話の終わりを示すものとして、一部の投資家の失望を買ったと言われている。

 増配は株主への還元策としては、目に見える分かりやすいものであるが、増配ではなく企業の成長による株価上昇で株主に報いる方法もある。企業としては、明確な経営戦略を持ち、内部留保の使い道について投資家の納得のいくように説明するのが、投資家の理解を得る唯一の道である。極端な増配を求める投資家が現れたとき、そのときに慌てて説明を行うのでは「その場しのぎ」の感を拭えず、他の投資家が株主提案に賛成票を投じるのを防ぐことができないかもしれない。常日頃のIR活動を通じて、会社の考えを理解してもらっておくことが必要であると考える。

(雨やどり)

2008年3月10日 (月)

2008年の株主総会に向けて

Ir_6s  発行体企業の株主総会ご担当の皆様の中には、株主総会に向けての準備に本格的に取組み始めていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
昨年度の株主総会の結果や最近の市場の動き等を踏まえると、本年度の株主総会については次のようなことが予想されます。

 第一は、買収防衛策の導入・継続に対する機関投資家の判断基準の厳格化です。例えば、株主総会議案の評価機関は、導入される買収防衛策がいくつかの条件をクリアしていなければその導入に反対を推奨する、との姿勢を従来からとっていました。本年の総会では、買収防衛策の導入に関連して、機関投資家が説明責任や防衛策自体のスキーム等、より精緻にその内容を評価してくるのではないかと予想されます。

 第二に、増配を中心とした株主提案が今年も増えることが予想されます。昨年の株主提案では、提案者側の説明についても向上の余地があるのではないかと感じられることがありましたが、一部では早い時点で本年に向けての準備を開始したような動きもあったようです。株主の賛同を得るために、株主提案者側も何らかの工夫を試みるのではないかと思われます。

 第三に、事業再編等に関する「数字」の議論の活発化です。いちごアセットマネジメントにより昨年2月に行われた委任状争奪戦において、日本で初めて会社提案が否決されました。従来であれば、市場から数字の妥当性を指摘されることがあったとしても、発行体企業の決定した比率が株主総会で覆されることはありませんでしたが、今後は合併や株式移転等について、その妥当性に関する議論がより深まるのではないかと予想されます。今年に入っても、委任状争奪戦の結果、統合比率が原因となって経営側提案が否決される事例が既に発生しています。

 第四に、個人投資家の重要性の増大です。先ほど述べたいちごアセットマネジメントの事例では個人株主の賛同が株主提案者側の勝利に繋がったと言われています。株価が低迷してくると、個人投資家の比率が高まる発行体企業は多く見られるかと思われますが、今後の株主総会では、経営あるいは株主還元等に関する会社側姿勢の個人投資家に向けた説明がより重要になってくると予想されます。

 最後に、経営の客観性・透明性がより求められるようになってきているという点です。買収防衛策導入に伴う第三者委員会の独立性、社外取締役社外監査役の独立性あるいは情報開示等が、強く求められてくるのではないかと予想されます。足下では、投資家が投資先の企業に対して、株主総会の議決権行使結果を開示することを求めている動きも見られるようです。また、企業の持ち合い復活はやや懸念されることです。株主に対して十分な説明責任を果たすことが望まれます。

 「この投資家はアクティビストですか?」 今年になってお客様によく尋ねられる質問ですが、次のようにお答えしています。
一つは、議決権行使も株主アクティビズムの一つと考えれば、すべての投資家がアクティビストであるという点です。
次に、従来アクティビストでなかったとしても機関投資家は「変化する」可能性があるという点です。
そしてもう一つは、機関投資家株主がアクティビストになるか否かは、その会社次第でもあるという点です。

以上のような課題に対して、私どもも一緒にお手伝いしていくことができればと思っています。

(総論・各論)

2008年2月25日 (月)

機関投資家株主の考え方

Ir_3s 最近の新聞報道によれば、外資系アクティビストが指摘した企業価値の目標に関する内容と会社側の論点に意見の食い違いがあるようです。私達もいろいろな会社の経営者の方々とお会いし、IRをめぐる解釈でギャップを感じることがあります。私は大きく二つのことが関係していると思っています。

 ひとつは、「受託者責任の考え方」です。もともとは英語の「fiduciary duty」を翻訳したものですが、簡単にいえば、ある分野の専門家に何かをしてもらう(委託する)場合、それを引き受けた側は受託者責任を負うことになります。身近な例でいえば、医者と患者の関係です。患者は、病気の診断や処方については素人で、専門家である医者に病気を治してもらうことを委託します。医者は、専門家としての知見を最大限に活用し、専ら患者のためにその専門知識を活かしプロとして最良と思える判断を下し、治療を行います。このような素人と専門家との関係は社会のいたるところで発生しています。米国では、1974年のエリサ法(従業員退職所得保障法)にこの概念が規定されています。これは、企業年金制度の運営が失敗したことなどによって年金が受け取れなくなった人を救済するために、年金の加入者(年金の運用を委託した人)の受給権を保護するために制定されました。アングロサクソン系の考え方の根底にそのような発想があるうえに法律にも規定されているので、資金の運用者にとって受託者責任というのは、非常に重い責任となっています。従って投資家は、経営者というのは、株主(経営の素人)から経営を委託された専門家であり、専ら株主のためにパフォーマンスを最大限に上げるべく働いてもらわなければならないと考えています。そのように考えている年金の運用者たちは、自らが年金の受給者に対して受託者責任を負っているために、より切実に、経営者に受託者としての責任を持って欲しいと考えがちです。企業には株主の他にも、顧客や従業員など様々な利害関係者がいます。株主には、経営者が株主以外のステークホールダーとの関係を重視するのは理解できるが、受託者責任の関係は株主と経営者の間でしか適用されない、という考えがあります。日本では、終身雇用や年功序列という慣行の中で、ひとつの会社のなかで昇進して経営者になった方が多く、経営者は企業という共同体の長(おさ)という意識が強いため、株主から経営を委託されたという意識は希薄なのだと思われます。そのため、株主から企業価値が高まっているかどうか監視するとか経営者には説明責任があるとか言われても、何かしっくりこないのではないでしょうか。

 もうひとつは、「コーポレートファイナンスの理論」で、なかでも株主資本コストの概念が分かりにくい点に起因していると思います。このコストは負債コストのように明示的に示されているわけではなくて、あくまでも株主が期待するトータルリターンということです。株主には配当を払っているのでそれがコストだと思っている経営者もいるのではないでしょうか。資本に対するコストは経営者にとってみれば、事業を営むうえで最低限達成しなければならないハードルという側面もあるのですが、そのことに対する意識は低いように感じます。決算短信などに、目標とする経営指標として利益の金額や売上に対する利益率のみを掲載している企業が多いことでもわかります。株価を上げていくためには、理論的に何を改善しなければならないかについて、経営者と株主の考え方にギャップがあるように感じます。

 受託者責任の考え方は日本人の会社観になじみにくいし、ファイナンス理論は難しいかも知れませんが、上場企業の経営者の方々には、経営の専門家として、これらの考え方を理解していただいて、株主と共通の土俵で議論し、建設的な関係が進展することを期待します。IRコンサルタントもその橋渡しになればと思っています。

(投資道)

2008年2月12日 (火)

IRサイト充実に向けて

Ir_3s 上場会社のIRサイトはここ数年急速に充実してきた。6~7年前だったか、ある経済誌に各社のIRサイト・ランキングが発表され、それにIR担当者が、というよりも企業のトップが強く反応して、それまでなかったIRページを新設したり、シャビイな内容のIRページを拡充する動きが一気に進展したように思う。その約1~2年後には、IRサイト内をどのように整理するかという項目の議論が終わり、今から3年ほど前から「個人投資家の皆様方」という個人投資家IRを強く意識した専用ページが設けられるようにもなってきた。

 現在、上場会社のHPをアトランダムに除いてみると、10社中9社以上において「IR」や「IR情報」、「投資家・株主の皆様へ」などのIRサイトがトップページに設けられている。また、一見それらしいものはなくても「企業情報」、「会社情報」の中をみると、決算説明会資料などが掲載されており、IRサイトは“標準装備”の時代になっている。
肝心のコンテンツはどうか。なかには義務的にIRサイトを設けている会社もあり、3年くらいは改訂せずとも使えそうなトップメッセージや適時開示の発表リリース、決算短信のみというケースもまだ少なくない。しかし、総体としては、上述した説明会資料や説明会の動画・音声配信、株主通信、IRカレンダー、アニュアルレポート、ファクト・シート、IR専用のインベスターズガイド、株主総会関連情報、個人を意識した冊子やコーナー、中期経営戦略(計画)、FAQ。。。。。などが揃ってきている。見るからに、個人投資家・株主を意識しているのが強烈に伝わってくるIRサイトも数多い。IRサイトのコンテンツというわけではないが、IRメールマガジン(投資家向け)を発行している会社もある。

 ではもう本当にコンテンツは十分揃っているのだろうか。確かに表面的には様々なIR関連のコンテンツは揃っているものの、その実際の内容となるとそうはいかない。今回は決算説明会資料を例にとってみよう。本決算、第1Q決算、中間決算、第3Q決算に対応した年4回の決算説明会を開催し、4回分の説明会資料を掲載していても、その中味は決算数字の表とグラフが中心で、その決算(実績・予想)の増減益の理由があまり示されていない、最近のニーズで言えば利益配分に関する考え方が示されていない、などのケースがある。もっとも、こうした内容は説明会資料よりも制度開示の枠組みに位置している決算短信において詳細にかつわかりやすく説明しなければならないが、議論が拡散してしまうので、説明会資料の話に戻そう。

 説明会資料の内容が充実しているとしてもなお、コンテンツ拡充のための方策の一つとしてお勧めするのが、決算説明会におけるプレゼンテーションとQ&Aの内容をテキストとして掲載することだ。説明会の模様を資料と併せ音声・動画配信することはもちろん投資家には有り難いし、フェア・ディスクロージャー実現にも適うことである。しかし、まともにネット上で1時間前後の時間視聴する投資家はどれくらいいるのだろうか。動画や音声の質はとみに向上しているものの、それでもネット視聴は疲れるし、全くもって効率的ではない。3社分視聴すると3時間ほどかかってしまう。まずは要約版のテキスト掲載から始めてはどうか。あるいは、プレゼンテーションのみの掲載から始めてもよい。社長原稿がある会社ならば、造作もないことだろう。次のステップがQ&Aの掲載である。音声・動画でも配信でも抵抗のある部分だが、このQ&Aにおける会社側の回答内容は投資家にとって非常に有用なIR情報なのである。なぜなら、ネットにアクセスしてくる投資家も同じような質問を持っている可能性が高いからである。また、一連の質問内容がその時の企業分析ポイントとなっているからだ。

 これに続くステップは機関投資家とのスモールミーティング、さらに個別取材へと続く。大企業/IR先進企業を中心にこうしたテキスト掲載の流れが始まっているように思う。
もし、まだ抵抗感があるのであれば、FAQ(よくある質問と回答)のコーナーで一般的なQ&Aとして処理すればよい。「銘柄コードは何ですか」、「名義書換はどうすればよいですか」などだけでは、寂し過ぎる。。。。。。

(竹馬と桃)

2008年1月28日 (月)

政府系ファンドを巡る動き

Ir_3s サブプライムに端を発した資本市場の混乱が続いています。そんな中、巨額損失を計上した金融機関に資本注入したことで、いわゆる政府系ファンド(ソブリンウェルスファンド)が注目を集めています。特に注目を集めているのは、シティグループに出資したアブダビ投資庁(ADIA)、UBSグループに出資したシンガポール投資庁(GIC)、モルガン・スタンレーに出資した中国投資有限責任公司(CIC)、メリルリンチに出資したテマセク・ホールディングス、といったところでしょうか。いずれも50億ドルを超える規模の出資をしています。

私達が日頃、実質株主の判明調査をやっておりましても、上記のADIAやGICは多くの会社で登場します。他にも、ノルウェーの政府年金基金やサウジアラビア通貨庁、クウェートやカタールの投資庁などは頻繁に目にします。(さすがにロシアやインドの資金はまだ見かけたことはありませんが。)最近では、中東までIRで訪問されている企業も出てきているようです。

これら政府系ファンドの資金は、モルガン・スタンレーの推計では、最大2.5兆ドルと言われています。(2015年には12兆ドルに拡大するとも言われています。)巨額の資金を運用する政府系ファンドですが、一部を除いて資金総額や運用手法は非公開であるため、日本のみならず海外で脅威論が展開されることがあります。事実、ドイツでは、基幹産業が外資の傘下に入ることを阻止する法案が提出されましたし、フランスでは、政府が黄金株を保有する方針を見せています。(日本では、外為法改正の動きがありました。)ただ、これら政府系ファンドが敵対的買収を仕掛けて経営権を取得する事態になる可能性は極めて低いのではないでしょうか。(例えば、CICの楼会長も「経営権を取得することはない」と言明しています。)むしろ、長期投資家として、企業にとっては望ましい存在となる可能性が高いと見ています。
 
 ところで、CICが設立されたことで、日本も外貨準備を積極的に運用すべきという主張も聞かれます。確かに、変動相場制を採用する日本が100兆円を超える外貨準備を保有する必要はないように思えますし、米国債より高いリターンが期待できる投資先はいくらでもあるように思われます。一方で、米国債を売却する(または売却しようとする)ことによって米国債が暴落し、日本自身が最も損失を被るので、積極運用すべきでないという主張も頷けます。いずれの方針を採用するにせよ、政府内で外貨準備に関する議論が十分になされていないように感じられます。どちらが日本国民の利益に繋がるかを考えた上で、方針を打ち出して欲しいものです。

(ひよこまめ)

2008年1月15日 (火)

疾風に勁草を知る

Ir_2s 新年、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

市場の懸念が、サブプライムローン問題を発端とする「金融市場の混乱」から、「米国発の景気減速の程度と期間」へとシフトし、内外株式市場は年明け以降も軟調な展開が続いています。原材料価格の急騰や“変化”を強烈に訴える米国大統領選挙など、不透明要因が多いことも、投資家のリスク回避につながっており、Business Week誌のWhere To Investでも、今年は多くのストラテジストが守りの戦略を推奨し、日本株について慎重なスタンスをとっています。こうした状況はいつごろまで続くのでしょうか。仮に、昨年11月を米国景気のピークとして、1980年以降の、米国の循環的な景気サイクルがピークをつけた後の米株価の平均的な推移をあてはめると、本年1月までは激しく下落、上昇基調に転じるのは6月頃というイメージになります。遅くともその頃までには、米大統領選挙などの帰趨や影響が株式市場に完全に織り込まれて、日本市場にも好影響が及ぶことを期待したいところです。

日本の株式市場が海外投資家の売買動向に強く影響されることは、今回の株価下落局面でも確認されました。一口に海外投資家といっても、地域により投資スタンスやリスク回避姿勢には濃淡がみられます。東京証券取引所の海外投資家地域別株券売買状況によれば、昨年7月から11月まで5ヶ月間の累計で、海外投資家全体は8,128億円の大幅な売り越しとなっていますが、地域別にみると、欧州が7,995億円で最大の売り越し、アジアも4,985億円の売り越しですが、北米は5,257億円の買い越し(3地域以外は405億円の売り越し)となっています。私が株主判明調査を担当する企業でも、外人投資家の保有状況を半年前と比較すると、トップダウンの投資スタイルの比重が高い欧州系と日本に運用拠点を持つ投資家の株数が減少し、米国の投資家といわゆるソブリン・ウェルス・ファンドの株数は増加しているところが多いようです。もう一つ指摘させていただくと、継続的に海外ロードショーを行なって海外投資家との良好な関係を構築できている会社の場合は、今回のような株価下落局面で、保有株数上位の投資家による買い増しの動きがみられます。

実体経済でも資本市場においても、米国が最大の影響力を持つことに変わりはありませんが、ソブリン・ウェルス・ファンドのプレゼンスの上昇に象徴されるように、米国の絶対的な優位性は幾分か低下しつつあるようです。国際会計基準の共通化における欧州案への収斂、米国内におけるサーベインス・オクスリー法の内容を見直す議論の高まりなど、新たなグローバル・スタンダードを模索するような動きもみられます。そういった意味では、足元の景気減速の影響が一巡した後も、企業経営やIR活動の舵取りは難しい局面が続きそうです。「疾風に勁草(けいそう)を知る」は後漢書の王覇伝からの出典で、「困難や試練にあった時に、はじめてその人の意志の強さや値打ちがわかる」という意味だそうです。日本企業とそのIR活動は、現在まさに、その実力や真価を問い直される局面を迎えています。IR関係者には、IR活動を粘り強く継続していくことに加え、環境変化に適切に対応していくことが求められていると考えます。

(トーマス)

2007年12月17日 (月)

今年を振り返って

Ir_1s 今年も残すところ僅かとなりました。振り返ってみますと、今年の漢字が「偽」に選ばれたように、相次ぐ企業不祥事の発覚、政局の混乱、サブプライム問題による金融・経済の混乱、年金のずさん処理問題、殺人事件の多発、学力の低下、など暗いニュースが目立った年でした。明るい面はというと、学生にとって就職市場が拡大したことぐらいですか。その割には、給料は上がらず、ガソリンを始め生活物資の値上げで家計は苦しくなってきています。高速料金など公共料金も値上げです。ますます、私は高速道路を使わなくなりそうです。

さて、そうした世の中の(特に経済の)先行指標でもある株式市場の騰落率(年初より12月10日まで)を主要市場間で比較してみますと、以下の表のようになっています。

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ここで分かるように日本は最低の成績となっています。これにインド、中国、ロシア、中東のような新興市場を加えると日本の悲惨さがさらに際立ちます。昨年までの好調さの反動という面もあるのでしょうが、PBRが世界最低の水準にあることから、日本の将来に対する期待値が最も低いということを示しているのだと思います。この背景は、冒頭に触れた点に加えて、収益の変化率が縮小してきたこと、政治面でも改革路線の後退感、また、アクティビストなどの厳しい投資家を排除しようとする動きや、買収防衛策に対する裁判所の『?』マークのつく判断など、とりわけ外人投資家にとっては失望を与えるような事象が相次いだことと推測します。これらのことが短期的な株式市場の問題点です。

長期的な見通しとして、人口の減少から経済が縮小していくという議論をよく耳にしますが、これに対して、ソフトブレーン前会長の宋文洲氏は、日本の人口は8千万人で十分であると主張されています。インド、中国、ブラジル、アフリカ、米国など人口が増加している国に行って商売すれば経済成長は続けられるとの見方です。確かに、世界的には人口は膨張しており、世界に目を向ければ成長の機会はいくらでもありそうです。

さて、日本の保有する資産についてですが、対外資産は2006年末で558兆円もあります。負債が343兆円あるので純資産は215兆円となります。この資産から生み出される所得収支は14兆円とこれまた巨額なものとなっています。この対外資産規模はほぼGDPの規模に相当するもので、運用収益率を高めれば、GDPの成長率鈍化を埋め合わすことも可能です。

一方、個人金融資産に目を向けますと、総額約1500兆円のうち、現金・預金の占める割合は半分を占めており、株式は1割にも達していません。長らく言われていることではありますが、この比率を少し高めるだけでも時価総額約530兆円の日本の株式市場に対する影響力は甚大です。証券税制に関しては、直ぐに金持ち優遇とマスコミは牽制しますが、もっと大局的な視点で、日本の成長において大きな潜在力のある個人金融資産の活用する上で証券税制を議論すべきでしょう。

年金問題が騒がれていますが、日本の年金積立金の資産規模は114兆円と年金基金としては世界最大です。運用方法についてはあまり議論されていませんが、仮に、海外株式やヘッジファンドなどの運用比率が高ければ、運用利回りも今より高くなったはずで、この点にももっと議論のエネルギーを割いて欲しいものです。

また、最近注目されている政府系ファンドですが、最大規模のアラブ首長国連邦のファンドですら100兆円以下と推定されています。もっと日本の保有する資産の潜在力を見直しても良いのではないでしょうか。そうすれば、もっと将来に対して明るい展望も生まれてくるのではないでしょうか。

株式市場に話を戻しますと、今年の日本の株式市況は最低でしたが、世界に目を向けると結構すばらしい1年であったといえます。しかし、大方の人には株式は不調だったと理解されていると思います。大きな損失を被った投資家も多いとは思いますが、羹に懲りて膾を吹くようなことにならないように祈るばかりです。

好きの反対は嫌いではなく、無関心だそうです。株式投資に失敗し、株式市場への関心が失われてしまわないように、この厳しい相場環境だからこそ、企業のトップを含めて、IRに携わるかたがたの奮起を期待するところです。

(傍目八目)